2014年に神奈川県から小千谷市の岩沢集落に移住して10年目、せいのうれいと申します。
栄養学を学び、食品メーカーで微生物の培養をし、はたまたNGOのボランティアとしてケニアで子供の支援に関わったり、そのほかにも介護職や事務職や飲食業や、あれやこれやと職を転々としてここにたどり着きました。
現在の本業は(何が本業か分からないのですが、中でも自分が事業主として行っているものは)【ポレポレ工房】という菓子製造業ということになりますでしょうか。お米や地元の素材を生かしたお菓子、オーダーケーキ、時にお弁当やお惣菜なども作っています。
たまに料理教室とか。
そのほかにも、農業法人での事務のアルバイト、受託の事務仕事などもしており、いわゆるフリーランス的な働き方です。少し前にこれを、【イナカフリーランス】と名付けてくれた人がありましたが、いい肩書で気に入っています。
その傍ら、畑と田んぼで作物を作るということもしております。
今回は自分の畑の大豆と、田んぼの藁で作る納豆のお話です。
よし、納豆を作ろう。
納豆を作ろう!と思い立ったのは2年前。
知り合いから、手作りの納豆が美味しいと聞いたことから始まりました。その手作り納豆は納豆菌を使ったものなのですが、米作りもちょうど始めていた私は『そうだ!藁を使って納豆を作ってみようじゃないか』と思い立ったのでした。
国民食ともいえる納豆。スーパーに行けば何種類もの納豆が並べられていて、どれを選べばいいのか迷ってしまいますよね。タレの味もさまざまで、中にはカレー味とかたまご醤油とか、びっくりするような変わり種もありますね。食べたことはありませんが…
それだけ日本人にとっては毎日の食卓には欠かせないということですね。
私もよく買って食べてはいましたが、気になる点がいくつか。。。
市販の納豆の主流は発泡容器。しかも1食分ずつのパックになっているので、プラごみがたくさん出るということ。
あとはほとんどがタレ(とからし)付きであるということ。このタレが実はあまり好みでなく塩とか醤油とかで食べることが多いので、添付のタレが余って無駄になってしまうのでした。
どちらも個人的な趣向ではあるのですが、これも自分で作ってみようと思った大きな要因でもあります。
納豆の産地などに行くと、藁に包んだ納豆がお土産で売っていたりもしますよね。
いわゆる【わらづと納豆】ですね。ちなみに【つと】とは、藁などで包んだ食品などを意味する言葉だそうです。
これが自分で作れたら、うれしくないですか?
というわけで自作してみたところ、うまくいったのです!
これが美味しいのなんのって。粒のしっかりした大豆は、豆そのものの味わいも感じられ、藁の香りも市販の物とは比べ物にならないくらい豊かです。
材料は大豆と藁
初めの頃は自分で作って食べて楽しんでいたのですが、SNSなどにアップしてみるとけっこう興味を持ってくれる人がいることが分かりました。
昨年は大豆の収穫量も芳しくなく、味噌づくりワークショップは限られた人数でしか行えませんでした。そこで納豆であればさほど大量の大豆はいらないなと思い、今年は【納豆作りワークショップ】をやってみようと、募集をさせていただきました。定員10組にしましたがおかげさまですぐに満席となり、皆さんの関心の高さが伺えます。
材料として用意するものは、大豆と藁。以上です。
大豆は昨年収穫した【神の子(かんのこ)】を使います。粒は小さめ、味や香りがとても良く、青大豆の部類になります。枝豆で食べるのもサイコー、熟した大豆も甘みがあって美味しいのです。
納豆に使うには、一晩から丸一日水につけてから柔らかくなるまで煮ます。だいたい5~6時間くらいですかね。指でつまんでつぶれるくらいになるまで。
そして藁。
昨年の秋、稲刈りをして脱穀した後の藁を乾燥させておきました。
この時点ではまだやや緑色ですが、天日に当てて乾くと茶色くなります。乾いたらそのまま保管しておきます。
そして、使う少し前になったら、混在している雑草やチリチリとなった細かい葉を取り除き、熱湯で煮沸消毒します(これがけっこう手間だけど、美味しいもののためなら苦にならないもので)。
大きな鍋に湯を沸かし藁を押し込みだいたい15分~20分、ぐつぐつと煮ます。これで雑菌はほぼ死滅します。
そして納豆菌はそれでも生き残るのですね。すごく強い菌です。
その後再び乾燥させます。室内の日当たりの良い場所に広げて置いておくか、早く乾かしたいときはファンヒーターに当てたりしていました。
乾いたらこんな感じになります。
ワークショップの様子と発酵させる際の注意点
さてワークショップ当日です。参加者の皆さんには藁に包むという作業をしてもらいました。
包む。それだけなんですけどね。
根元をそろえて藁を束ねます。下の方をひもでぎゅっと縛ってまとめ、そこから30センチ位上のところでもう一か所結びます。
その間の藁を手で押し広げて空間を作り、そこに煮た大豆を詰めます。
詰めたら上の部分を手前に折り曲げて蓋をするように被せ、何か所かまたひもで結んで、出来上がり。
余分な藁の端っこを切り落とします。
この包み方は私がやっている方法であり、経験者のお話によるとそれぞれの家のやり方があったようです。
そしてこれらのわらづとは皆さんに持って帰っていただき、各自ご家庭で保温、発酵させてもらいます。
保温の方法は、●こたつ(私はこれ)、●クーラーボックス(発泡スチロール箱)+湯たんぽ(またはペットボトル)。などでしょうか。
私の経験による注意点として皆さんにお伝えしたのは
●納豆菌の発酵温度は約40℃、それより高くても50℃位までは大丈夫、でも低いとカビの生える可能性が高くなる。
●だいたい2日で糸が引く。3日たっても引かなかったらあきらめた方が良いでしょう。
この、出来上がりまでのワクワク感がまた良いのですよね。
どうかなどうかな?と思いながらちょくちょくのぞいてみたり、匂いを嗅いでみたり、そんな過程もぜひ楽しんでもらえたらと思います。
ちなみにこちらは【さかな豆】で作った納豆、うまくいけば粘りもしっかりな美味しい納豆になります。
藁に包んでおけば納豆になるというロマン
昔は当たり前に家庭で作っていた納豆。
先日、家の前で藁の選別をしていたときに通りかかった近所のおばあちゃん。
『その藁どうすんの?』と聞かれたので『納豆作るんですよー』と答えると、『あれー懐かしいねえ』と、いろいろお話を聞かせてくれました。
『昔はよーく作ってたなあ。うまく包むのが難しくてさ、湯たんぽとむしろで包んであっためておいて、上手くいかなくて糸引かない時もあったねえ。もみ殻に入れたりもしたんだけど、もみ殻は出すときにぶわーって散らかるからやっかいでねえ。』
『家の人が東京に出稼ぎに行くときにその納豆持っていったら、本当の納豆だとみんなに喜ばれてそれ以来、人にあげるために一生懸命たくさん作るようになったんだよ。』
今はいろんな技術や流通が進化して、納豆もできたものを買ってくるのが当たり前だった私の生活。
それが自作の大豆と藁で作れるなんてもう、ロマンですよ。感動ものです。
昔の【当たり前】が今の私には【新しい感動】を与えてくれるのです。
近年は発酵食品が注目され、腸内環境が大事とかそんな話をよく聞いたり見たりしますが、私たちの先祖においては、生活に根付いた元来の食の姿なのですよね。
ここでの生活はそんな発見や感動にあふれていて、私の感じる豊かさや贅沢感を少しでも誰かと共有できたらいいなあと思いながら、このような機会を設けております。
納豆菌のこと 発酵のこと
納豆菌とは、枯草菌(こそうきん)の一種であり、文字通り枯れた草についている菌なのです。特に藁に多く生息すると言われていますが、藁以外の植物にも枯草菌は存在します。調べてみると、シダ科の植物や、ビワの葉、マコモなどでも納豆はできるようで、植物の種類によって納豆の性質も異なるものになるそうです。
なんだかおもしろいですね。藁以外の植物でも試してみたくなってきました。
ただ、すべての枯草菌で納豆ができるかというとそうでもなく、あとは運のようです。私は運よく毎年藁で納豆が出来てるわけで、ありがたいことです。
また、よく納豆は『大豆を腐らせたもの』と表現されたりもしますが、間違ってもいないですが正しくもないと思います。
発酵とは微生物が増殖することにより、食品の成分を分解したり性質を変化させたりして味や栄養価を向上させることを言いますが、簡単に言うとその変化で生じるものが人間にとって有益であれば【発酵】、有害なものであれば【腐敗】となるわけです。
ただし発酵も進み過ぎると味が悪くなったり刺激の強いガスを発生させたりします。
そう考えると、発酵とは主観的で相対的な表現であるとも言えますね。
理屈はともかく、古き良き日本の食文化、これからもまだまだ面白い発見はありそうですので、またご報告できればと思います。