山間や丘陵の斜面に階段状に広がる棚田(たなだ)は、単なる農業の場を超え、自然と人々の営みが織りなす芸術的な景観として、訪れる人々を魅了します。
棚田は、単に美しいだけでなく、深い文化的、歴史的意義を持っています。険しい地形に適応した先人たちの知恵と努力の結晶であり、持続可能な農業を実践してきた証でもあります。これらの地を訪れることは、日本の原風景に触れ、そこで暮らす人々の土地への深い繋がりを感じる貴重な機会となるでしょう。
新潟県内の多くの棚田は、その文化的、農業的な価値が認められ、「つなぐ棚田遺産」として農林水産省により認定されており、その保全と継承の取り組みが進められています 。
この記事では、新潟県の棚田の魅力を5つの棚田から紹介していきます。
五つの絶景棚田
新潟県に点在する数々の美しい棚田の中から、今回は特に個性豊かな五つの場所を選び、その魅力を紹介します。それぞれ異なる景観や特徴を持つこれらの棚田を巡る旅は、新潟の豊かな自然と文化に触れる素晴らしい機会となるでしょう。
棚田名 | 市町村 |
---|---|
外之沢の棚田 | 小千谷市 |
星峠の棚田 | 十日町市 |
蒲生の棚田 | 十日町市 |
池谷・入山の棚田 | 十日町市 |
岩首昇竜棚田 | 佐渡市 |
1. 外之沢(そでのさわ)

「知る人ぞ知る棚田」と称される外之沢の棚田は、新潟県内でも比較的静かで、隠れた名所としての魅力を持っています。
約80枚の田んぼが、南向きの斜面に広がり、一日を通して陽光が降り注ぎ、美味しい米作りに適した環境です。高台にある展望台からは、眼下に広がる棚田を一望でき、その奥には雄大な魚沼丘陵と、遥かに三国山脈の山々を望むことができます。棚田の田んぼは、ほぼ3列に並び、中央を斜めに走る農道が独特の景観を作り出しています。2~3メートルの高さの土の畦(あぜ)は、この地の農家の人々の維持管理の苦労を物語っています 。
- 公共交通機関: JR飯山線(いいやません)の越後岩沢駅(えちごいわさわえき)から車またはタクシーで約20分で。また、JR上越線(じょうえつせん)の小千谷駅(おぢやえき)からは車で約35分。越後岩沢駅からタクシーを利用した場合、棚田までは約15分です。
- 車でのアクセス: 関越自動車道(かんえつじどうしゃどう)の越後川口IC(えちごかわぐちインターチェンジ)から国道117号線を十日町(とおかまち)方面へ南下し、約13キロメートル(約15分)で県道413号線へ入り、外之沢集落へ向かいます 。国道117号線を岩沢方面から十日町方面へ向かう場合、トンネルを抜け、「岩山」(いわやま)方面へ左折します。道なりに進むと、棚田展望台入口の看板が見えますので、そこを左折して道なりに進んでください 。
- 駐車場情報: 棚田の展望台付近には、普通車用の駐車場があります。ただし、大型車は展望台まで通り抜けることができませんのでご注意ください 。また、冬期間は展望台までの道が通行止めになることがあります 。
外之沢の棚田が「隠れた名所」と表現されるように 、その静かで落ち着いた雰囲気は、より多くの観光客が訪れる他の有名な棚田と比べて、穴場的な魅力を求める旅行者にとって特に魅力的です。また、地元の「岩沢アチコタネーゼ」によるツアーは、地域住民が主体となって観光を推進する好例であり、観光客にとってはより個人的で持続可能な関わり方を提供する可能性があります。
小千谷市の棚田について、関連記事の「【新潟の絶景集結!】新潟といえば田園風景!知る人ぞ知る、小千谷の絶景棚田ツーリングコースをご紹介【魚沼スカイラインにも行きやすいよ】」でも詳しく紹介しています。ぜひチェックしてみてください。

2. 星峠(ほしとうげ)

新潟県内はおろか、全国的にも非常に有名な棚田の一つである星峠の棚田は、大小約200枚の田んぼが斜面に魚の鱗のように広がる壮大な景観が特徴です。その美しさは、2009年のNHK大河ドラマ「天地人」(てんちじん)のオープニング映像にも使用されたほどです。
特に有名なのは、田んぼに水が張られた時期に見られる「水鏡」の景色で、空や周囲の山々が水面に映り込み、息をのむほどの美しさです。早朝には、幻想的な雲海が谷を覆うことがあり、その景色はまるで別世界のようです。朝霧、夕日、星空など、一日のうちでも時間によってその表情を変えるため、何度訪れても新しい発見があるでしょう。
- 共交通機関: ほくほく線(ほくほくせん)のまつだい駅(まつだいえき)で下車し、タクシーで約20分です 。
- 車でのアクセス: 関越自動車道(かんえつじどうしゃどう)の六日町IC(むいかまちインターチェンジ)から国道253号線を約1時間 、または北陸自動車道(ほくりくじどうしゃどう)の上越IC(じょうえつインターチェンジ)からも国道253号線を約1時間です 。まつだい駅からは車で約20分です。国道253号線を上越方面へ進み、「池尻」(いけじり)交差点を斜め左に曲がり国道403号線に入り、約15分です。集落の入り口や集落内には看板が設置されていますので、迷わず行くことができますが、見落とさないように注意が必要です。
- 駐車場情報: 普通車約20台、大型車1台分の駐車場があります。ただし、水鏡の時期や早朝は大変混み合いますのでご注意ください。冬期間は、駐車場と展望台は除雪が行われていないため利用できません。利用再開は、雪解けの時期によってゴールデンウィーク明けになることもあります。
星峠の棚田の圧倒的な人気は、駐車場や展望台といった観光インフラの整備を促しましたが、同時に、私有地である農地への立ち入りやマナーの問題も生じさせています。そのため、訪問者には厳格なマナーの遵守が求められています。
3. 蒲生(かもう)

越後松代棚田群(えちごまつだいたなだぐん)の一部である蒲生の棚田は、頻繁に発生する朝霧(あさぎり)が生み出す幻想的な風景で知られています。朝の光が霧を通して水面に反射する様子は、写真家たちの格好の被写体となっています。星峠の棚田に比べると規模は小さいですが、やや急な斜面に位置しており、異なる趣があります。周囲には杉林が広がり、遠くには越後三山や巻機山(まきはたやま)を望むことができます。田んぼの畦(あぜ)には木々や小さな小屋が点在し、牧歌的な風景を醸し出しています。
- 公共交通機関: ほくほく線のまつだい駅からタクシーで約8分です。
- 車でのアクセス: 関越自動車道の塩沢石打IC(しおざわいしうちインターチェンジ)から車で約60分です 。国道353号線との交差点「蒲生」信号付近が目印です。そこから十日町市街方面へ50メートル進み左折、さらに350メートルほど進みます 1。カーナビの住所は、新潟県十日町市蒲生1588-8(国道353号線との交差点)です。そこから案内に従って進んでください。
- 駐車場情報: 普通車用の駐車場があり、棚田の鑑賞ポイントには駐車場や展望台が整備されています。
蒲生の棚田は、星峠の棚田と比べて小規模であり、急峻な地形に位置していることが、写真撮影において異なる視点と、より親密な風景との繋がりを提供します。朝霧が特に有名であることは、広大なパノラマビューが特徴の星峠とは異なる、独特の雰囲気を作り出しています。
4. 池谷・入山の棚田(いけたに・いりやまのたなだ)

十日町市の山間部に位置する池谷(いけたに)・入山(いりやま)の棚田は、豪雪地帯ならではの豊かな自然に囲まれています。約156枚の田んぼが16.5ヘクタールにわたり、集落内に点在しています。この地の特筆すべき点は、2004年の中越大震災からの奇跡的な復興の物語です。震災後、多くの若者やボランティアが移住し、荒廃しかけた棚田を修復し、コミュニティを再生させました。
棚田では、減農薬、減化学肥料栽培や、一部では農薬や化学肥料を一切使用しない天日干し(はざかけ)米の栽培など、持続可能な農業への取り組みが行われています。周辺地域は生物多様性に富んでおり、豊かな自然が残されています。
- 公共交通機関: JR十日町駅西口から徒歩10分の「十日町車庫前」バス停より、菅沼・後山行きの南越後観光バスに乗車し、「焼野」バス停で下車後、徒歩約30分(タクシーの利用が推奨されています)。
- 車でのアクセス: 関越自動車道の六日町ICより国道253号線、117号線、252号線を経由して約50分です。国道252号線沿い、「庭野工業所」付近の三叉路を「池谷・入山」の案内看板の方向へ入ります。そこから約5~10分ほど上り坂を進むと池谷集落に到着します 。
- 駐車場情報: 駐車場情報はありません 。
池谷・入山の棚田の物語は、農村コミュニティの強靭さと、地域主導の取り組みと外部からの支援によって過疎化が進む地域が再生する可能性を示しています。震災からの復興は、社会的な革新を通じて文化的景観がどのように保存され得るかの感動的な例です。
5. 岩首(いわくび)

佐渡島に位置する岩首昇竜棚田は、「昇竜棚田」とも呼ばれ 、約460枚の田んぼが標高350メートルを超える急峻な山間に広がっています 。
その名の通り、麓から見上げると、山頂へ向かって龍が天に昇るかのように見えることから名付けられました 。大小様々な形の田んぼが連なり、その独特の景観は訪れる人々を魅了します 。特に、春先に水を張った田んぼに朝日が差し込む光景は息をのむほどの美しさです 。
展望小屋からは、棚田の全景と、遠くに広がる日本海を一望できます 。この地域は、かつて炭焼きが盛んだった場所で、現在も広葉樹林が残る里山です。雨水はこの森に蓄えられ、湧き水となって棚田を潤します 。棚田より上流には、落差40メートルの「養老の滝」があり、里山の恵みを感じさせるパワースポットとなっています 。
- 公共交通機関: 佐渡汽船(さどきせん)両津港(りょうつこう)から車で約60分、小木港(おぎこう)から車で約55分です 。
- 車でのアクセス: 佐渡一周道路から岩首方面へ 。カーナビの目的地設定は、「岩首昇竜棚田展望小屋」(いわくびしょうりゅうたなだてんぼうごや)が便利です 。
- 駐車場情報: 棚田の近くに駐車場があります 。