小千谷市の南部にある人口90人弱の小さな村「若栃集落」。この若栃集落に、全国から注文が殺到する「魚沼産コシヒカリ」を生産する「(株)Mt.ファームわかとち(マウントファームわかとち)」があります。
「(株)Mt.ファームわかとち」は、集落の維持・活性化を目的に立ち上げられ、お米や農産加工品の生産・販売から民宿の運営まで行っています。
今回「(株)Mt.ファームわかとち」代表取締役の細金剛さんに、若栃集落の村作りの取り組みや自慢のコシヒカリについてお話を伺ってきました。
小千谷でも知られていなかった若栃がメディアに出るまで
若栃で生まれ育ち一度東京で働いた後に、はじめは農協職員として若栃に戻られた細金さん。さまざまな時代の若栃を見てきましたが、昔は若栃という集落は小千谷市内でもあまり知られていない存在だったそうです。
小さな集落を強みに「わかとち未来会議」を立ち上げ
若栃に変化が起こったのは2004年に起こった新潟県中越地震からでした。災害がひどく避難所生活を余儀なくされ、どうしようもできないと諦めムードになることも。そこからお年寄りの元気が次第になくなってしまったそうです。
災害などがあったときは普通行政に頼る。でもそれでは続かないと地域の住人たちは感じ、住人主体で若栃の未来を考え立ち上げたのが「わかとち未来会議」でした。
自治会などではなく、若栃で気の合う仲間たちと「一緒にいけいけー!」と勢いで始めたのが逆によかったんだと細金さんは言います。
諦めムードから一転、このまちをどうにかよりよくしていきたいと愛着心のあるみなさんはやる気に満ちあふれていったそう。5つの事業にチームを分け、県を越えて研修に行ったり、民宿を始めるなどのアイデア出しをたくさんしていくなかで、大きな変化があったのは一人のコーディネーターさんとの出会いでした。
外の人を繋ぐ、若栃の日常
「NPO法人まちづくり学校」のコーディネーターの方との出会いをきっかけに、道しるべとなるようなワークショップを実践。「わかとち未来プラン・実践プラン」を通して農業やイベント、祭りなどをどうするか何度も考えたそう。具体的には、以下の取り組みが実践されました(これらの取り組みはすべて実現しています!)。
- 農家民宿「おっこの木」の開業
- 農業法人の設立
- 特産品加工所の開設
- しめ縄やわらぞうりの製造販売
- 花の植栽
- 若栃の歴史調査
外の人を受け入れる機会を多く設け、早稲田大学による農業体験の受け入れをはじめ、グリーンツーリズム体験として今も近隣の小中学校の総合学習や民宿も含めた体験旅行の実施をしています。また関東の学校からも田植えや稲刈りなどの農業地域である若栃の日常を体験できる機会を多く設けています。
細金さんは地震から復興に向けてこのように多くの人を受け入れられるようになるまでの道のりを「NHKから長期的に取材を受けたことで、多くの方に若栃のことを知ってもらえる機会が増えた。それからさまざまなメディアに若栃が出るようになったことがとても大きかったと」話します。
また復興支援として多くの助成金や制度が揃っていたおかげで今までもいろんなチャレンジができた。大いに活用させてもらえたのがありがたかったそうです。”地震があったから”といった言い方になってしまうけれど、未曾有のマイナスからのスタートだったからこそ、地域住民や若栃地区が大きく進化する要素であったのは誰もが感じているようです。
「Mt.ファームわかとち」を通した生涯現役の生き方を目指して
わかとち未来会議を通じて復興の基盤を作ることができた若栃地区の次の課題は、地域産業を活用して継続的な経済力を上げることでした。そのために創業されたのが細金さんが代表を務める(株)Mt.ファームわかとちです。
地域のなかで事業と雇用のサイクルを創出する仕組み作りへ
現在のMt.ファームわかとちの事業内容を伺うと、主に
- 若栃で育ったお米や野菜の販売
- 加工品の製造・販売
- 農業をされている方向けに農作業の受託
- 古民家民宿「おっこの木」の運営
など産業を支える事業を中心に、わかとち未来会議で運営していた有形文化財にも指定されている古民家民宿「おっこの木」の運営も担っています。
また農業に従事する後継者を育成していくために、農業研修生としてのインターン制度も実施。実際に取材時には関東から研修生として現在若栃に在住されている方や、インターン後に加工品を販売されている方もいらっしゃいました。
体験だけでなく研修として来てくださる方が増えてからの変化を伺うと「うちの地区はとにかくウェルカム。いろんな人が来ればさまざまな考えを知れるのですごく刺激がある。それがすごくいいんだ、じゃないと同じ顔ばっかりでつまらない!」と笑いながらも、いろいろ吸収するとできることがたくさんあると語っていました。
若栃に暮らす方はほとんどの方が畑をされているそう。ただ農業を仕事にとなるとどうしても力仕事なので男性の仕事のイメージ…では若栃に暮らす女性の方はどのような働き方をしているのかというと実は女性の力がとても役に立っているのだそうです。
加工品の事業に関しては扱う野菜や山菜を一度、地域のお母さんから買い取り、加工品の作業を労働としてお願いされているようです。
また、古民家民宿「おっこの木」は、近隣のお母さん方が複数名で運営を担当しています。細金さんは、女性の力が強い、人と会うのが大好きだから、会うことで吸収もしてくれるし、一生懸命やってくれていると感謝されていました。
簡単になくすのはやりたくない…細金さんの挑戦と理想の若栃の未来
これまでもいろんな挑戦をしてきた細金さんに、これからの若栃の未来の理想や野望をお伺いすると「みんなが生きがいを持てる社会をつくりたいと。高齢化社会で人口が減ってきているからこそ、ちゃんと稼げるような仕組み作りをしていろんな人と出会えるようにしたい、そうすればきっと楽しい。」と話します。
また会社も「地域にお金を落とせるようになってきたので、もっとみんなが生涯現役でいられるような仕事を作りたい。それでいてちゃんと稼げる会社になることで、最終的には気持ちが幸せだなとなるような生活ができればいい。」と語る細金さんの表情が温かく、とても印象的でした。
「農家の高齢化や儲かるための仕組み作りなど、課題はたくさんあるが、会社はいいところだけやればいいというものではない。簡単になくすことはやりたくないから、いろいろやって赤字だったとしても、続けて何かを見つけることで未来が拓ける。」そう語る細金さんの挑戦はこれからも生涯現役で続いていく…そんな気がしました。
教えてください!若栃米の魅力
きっと、新潟のお米は?と聞くと多くの方が魚沼産のコシヒカリと答えるのではないでしょうか…私もその一人でした。取材の前に出会った人たちからも若栃米は美味しい!とみんなが大絶賛。今さらながら若栃米の魅力や特徴について教えてください!とお伺いしてみました。
「…おぉ!いいこと聞いてくれたねぇ!!」
細金さんは今まで以上に表情を大きく変えて、とてもいい反応を見せてくれました。魚沼米でも地域によって全然違うんだよ。若栃のお米は他と比べてもまぁ美味い。そしてお米を買ってくれた方も「こんなに美味しいのは初めて!とファンになってくれる県外の方も多いよ。」と嬉しそうに語りました。
お米というのは水と土壌によって美味しさが大きく変化するもの。若栃は自然豊かであり、山の中にあるので標高が150~200mくらいの高さにある。これがどんな影響があるかというと、1日の中で寒暖の差が激しいことで、人間と同じく日中は成長活動・夜は休むことができるので、甘みを出してくれるのだそうです。
また水も自然湧水で作られるため、ミネラルの養分が多く含まれた山から流れ出た水でおいしさを作り出しています。豪雪地帯のため、雪の時期は最大4mほども積もり、雪が完全に無くなるのは遅くて4月後半から5月前半ごろ。大変なこともあるが、雪と一緒に栄養が田んぼに流れ出ることで美味しさを作り出しています。
実になってくれる。それが何よりの喜び
細金さんは農家としての作業で一番好きなことは何ですか?そう問いかけると「そりゃあ…酒飲むことでしょ!!」その一言に一同大爆笑しながらも心の中で(たしかに)(わかる)と言っている声が聞こえてきそうでした。
農作業は汗をかくからこそ、すごく充実感が出るし、お米がちゃんと実になってくれて収穫できることが喜び。そしてお孫さんに野菜やお米をあげたりすると美味しいと食べてくれることもすごく醍醐味なんだそうです。
丁寧な選別を経て、全国に届く若栃米
取材の後には、作業施設にもお邪魔させていただきました。稲刈りから作業が終わるまでの期間は1ヶ月程度。籾を乾燥させるための作業が終わったら、玄米と籾穀とを分ける機械へと入れていきます。
ここまではイメージできたのですが、実はここからが重要な作業。収穫したときには異物や虫などが多く混ざっていて、その中でも多いのがヤケ米と破砕米。
見た目に影響が出るヤケ米は茶褐色や少し黒く着色したお米で、炊飯でムラがでてしまう破砕米は胴割れしたお米、これを取り除くことで綺麗で美味しいごはんが作れるのです。
若栃の魅力を届けてもらうには
お米や加工品はどこで買えますか?たくさん若栃米や若栃の産業を支える方々の想いや魅力を聞いて、必ず若栃米を食べようと心に決めたので聞いてみると、現在はMt.ファームわかとちが運営しているBASEのページやふるさと納税、産地直送のサービスなどから販売しているそうです。
【若栃のお米のご購入はこちらから】
画像引用:Mt.ファームわかとち
わかとち産コシヒカリは、ふるさと納税でも人気です。
若栃米を最大限に味わう美味しいごはんの食べ方や保存方法
お米は炊き方や保存方法で美味しさが左右されてしまうもの。炊き方のコツはまずお米をお研いだら30分〜1時間ほど水につけてから炊き始める。それだけでも全然違うが、炊けたらできるだけ早くほぐしてあげるとよりツヤが出て美味しく頂けるのだそうです。
そして実はお米が1番美味しい時期は新米が出てすぐではなく、1ヶ月くらい経ってからの11月が美味しい。新米だとお米がまだ落ち着いていないこともあり、お箸で取ったときにぐちゃっとしてしまうこともあるそうです。また香りが変わってしまうため、13度以下の冷蔵庫に入れることが大切なポイントだと教えていただきました。
さいごに
細金さんは復興も農業も大変だ…と言いながらも、常に変化を前向きに捉えて挑戦していく情熱を感じました。真摯に向き合い続けることで未来を拓き、若栃の地域住民に活力を与えていることで若栃全体の産業・繋がり・人柄がより豊かになっている。そんな気がした時間を過ごさせていただきました。若栃米、早く食べたい。