新潟県は、良質な米や日本酒の産地として広く知られていますが、その肥沃な大地と多様な気候は、歴史と風土に育まれた伝統野菜をもたらしました。
沿岸部の平野から雪深い山間地域まで、変化に富んだ自然環境が、それぞれ特性を持つ野菜を育み、地域の食文化を豊かにしてきたのです。
本記事では、新潟県に伝わる貴重な伝統野菜の一覧を示すとともに、その中から特に注目すべき五つの野菜を選び、それらの特徴、推奨理由、旬の時期、主な産地、そして代表的な料理やレシピについて詳しく解説します。
新潟県伝統野菜一覧
伝統野菜は、長年にわたり地域の人々に親しまれ、それぞれの土地の気候や風土に適応してきた、まさに生きた文化遺産と言えます。以下に、主な伝統野菜を一覧で紹介します。
分類 | 名称 | 産地 | 特徴 |
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菜っ葉類 | 女池菜 (めいけな) | 新潟市(主に中央区女池) | 雪国で冬場の貴重な野菜として栽培されてきた。とう立ちした茎と花蕾を食べる。おひたしや漬物、炒め物など。特有のぬめりと甘みがある。 |
長岡菜 (ながおかな) | 長岡市周辺 | 漬け菜として有名。野沢菜の原種ともいわれる。シャキシャキとした食感。 | |
大崎菜 (おおさきな) | 三条市大崎地区 | 漬け菜用。霜にあたると柔らかくなり、甘みが増す。 | |
城之古菜 (たてのこしな) / 城之古青菜 (たてのこしあおな) | 見附市城之古町 | 漬け菜用。独特の風味と歯ごてがある。 | |
体菜 (からだな) | 魚沼地域 | 漬け菜用。大きな葉が特徴。塩漬けにして乳酸発酵させる「体菜漬け」が有名。 | |
とうな (とうな) | 上越市 | アブラナ科の野菜。春先にとう立ちした茎葉を食用にする。おひたしや和え物、炒め物など。 | |
三月菜 (さんがつな) | 上越市 | 冬の終わりから春先にかけて収穫される。雪の下で甘みを蓄える。おひたしや汁の実など。 | |
アスパラ菜 (アスパラな) | 新潟県内各地 | アブラナ科。若い花茎を食べる。アスパラガスに似た風味と甘みがある。おひたし、炒め物、天ぷらなど。比較的新しい品種だが広く栽培されている。 | |
なす類 | 十全なす (じゅうぜんなす) / 本十全 (ほんじゅうぜん) / 白十全 (しろじゅうぜん) / 新潟十全なす (にいがたじゅうぜんなす) / 新潟黒十全 (にいがたくろじゅうぜん) | 新潟市、長岡市など | 小ぶりな巾着型。皮が薄く、肉質が締まっている。主に浅漬けにされる。新潟の夏の代表的な味覚。 |
深雪なす (みゆきなす) | 魚沼市 | 長卵形。皮が柔らかく、果肉は緻密で甘みがある。焼きナス、煮物、漬物など用途が広い。 | |
中島巾着 (なかじまきんちゃく) / 長岡巾着なす (ながおかきんちゃくなす) | 長岡市中島地区 | 丸みを帯びた巾着型。肉質が緻密で煮崩れしにくい。煮物や田楽、蒸しなすなどに向く。 | |
魚沼巾着 (うおぬまきんちゃく) | 魚沼地域 | 巾着型。皮が硬めで煮崩れしにくく、肉質は緻密。漬物や煮物に適する。 | |
鉛筆なす (えんぴつなす) / 上越丸えんぴつナス (じょうえつまるえんぴつナス) / 塩俵なす (しおだわらなす) | 上越市 | 細長い形状。皮が柔らかく、アクが少ない。焼きナス、炒め物、漬物など。 | |
久保なす (くぼなす) | 新発田市 | 大型で丸い形。肉質が柔らかく、加熱するととろけるような食感になる。焼きナスや田楽に最適。 | |
笹神なす (ささがみなす) / 白なす (しらなす) | 阿賀野市(旧笹神村) | 皮が白い(薄緑色)のが特徴。皮が柔らかく、肉質は緻密で甘みがある。加熱するととろけるような食感。田楽、揚げ物、煮物など。 | |
緑なす (みどりなす) | 新潟県内各地 | 皮が緑色のなす。加熱しても色がきれいに残りやすい。皮が柔らかく、肉質は緻密。炒め物、揚げ物、煮物など。 | |
越後白なす (えちごしらなす) | 新潟県内各地 | 皮が白い大型の丸なす。アクが少なく、肉質は柔らかくクリーミー。ステーキや田楽、揚げ物などに向く。 | |
越の丸なす (こしのまるなす) | 新潟県内各地 | 丸なす。皮が柔らかく、肉質は緻密で甘みがある。煮物、焼きナス、田楽など。 | |
梨なす (なしなす) | 新発田市など | 果皮が梨のような色と模様を持つ。アクが少なく、生食も可能とされる。漬物やサラダ、炒め物など。 | |
八石なす (やいそなす) | 長岡市、小千谷市 | 丸形でやや小ぶり。皮が柔らかく、甘みがある。漬物(特に一夜漬け)に適している。 | |
巻機なす (まきはたなす) | 南魚沼市 | 長卵形。皮が柔らかく、果肉は緻密で甘みが強い。焼きナス、煮物、漬物など。 | |
早生大丸 (わせいおおまる) | – | 丸なすの一種。早生品種。 | |
大福丸 (だいふくまる) | – | 丸なすの一種。 | |
梵天丸 (ぼんてんまる) | – | 丸なすの一種。 | |
木崎やきなす (きざきやきなす) | 新潟市北区木崎 | 長なす。皮が薄く、果肉が柔らかいため焼きなすに最適。 | |
丸なす (まるなす) | 新潟県内各地 | 丸い形状のなすの総称。品種によって特徴は異なるが、一般に肉質が緻密で煮物や田楽に向く。 | |
焼きなす (やきなす) | 新潟県内各地 | 焼きなすに適した品種の総称。一般に長なすで、皮が薄く果肉が柔らかいものが多い。(例:木崎やきなす) | |
うり類 | 高田シロウリ (たかだシロウリ) | 上越市(旧高田市) | 短い円筒形。果肉が厚く、歯切れが良い。奈良漬けなどの漬物用として利用される。 |
ひとくちまくわ (ひとくちまくわ) | 新潟市西蒲区 | マクワウリの一種。小ぶりで食べやすいサイズ。さっぱりとした甘みがある。 | |
なます南瓜 (なますかぼちゃ) / 糸うり (いとうり) / 金糸うり (きんしうり) / そうめんうり (そうめんうり) | 新潟県内各地 | ウリ科。加熱すると果肉が糸状にほぐれる。酢の物(なます)や和え物、サラダなどに利用される。シャキシャキとした食感が特徴。 | |
きゅうり類 | 刈羽節成きゅうり (かりわふしなりきゅうり) | 刈羽村 | 短太でずんぐりした形。果肉が締まっており、歯切れが良い。漬物に適している。 |
かぼちゃ類 | ばなな南瓜 (ばななかぼちゃ) | 魚沼市など | 細長い形状。ねっとりとした食感と強い甘みが特徴。煮物やスープ、お菓子作りなどに利用される。 |
豆類 | くろさき茶豆 (くろさきちゃまめ) | 新潟市西区黒埼地区 | 枝豆の一種。独特の香りと強い甘み、コクがある。新潟の夏の味覚の代表格。 |
肴豆 (さかなまめ) | 長岡市周辺 | 枝豆の一種。やや小粒だが、風味が良く、甘みが強い。「肴(さかな)に最適」ということから名付けられたとされる。 | |
いも類 | 新道いも (しんどういも) | 長岡市新組地区 | 里芋の一種。粘りが強く、きめ細かい肉質。煮物やおろし芋などに利用される。 |
八幡いも (やはたいも) | 佐渡市八幡地区 | 里芋の一種。大型で粘りが強いのが特徴。煮っころがしなどの煮物に適する。 | |
ずいき (ずいき) | 新潟県内各地 | 里芋の葉柄。赤ずいきと白ずいきがある。アク抜きして煮物、酢の物、和え物などに利用される。シャキシャキとした食感。 | |
栃尾里芋 (とちおさといも) | 長岡市(旧栃尾市) | 里芋。粘りが強く、煮崩れしにくい。煮物に適している。 | |
にんじん類 | 曽根人参 (そねにんじん) | 新潟市西蒲区(旧巻町曽根) | 短根で太い円錐形。肉質が柔らかく、甘みが強い。煮物、炒め物、サラダなど。 |
黒姫人参 (くろひめにんじん) | 柏崎市高柳町黒姫地区 | 長根種。色が濃く、香りが強い。主に漬物用として利用される。 | |
雪下人参 (ゆきしたにんじん) / 津南の雪下にんじん (つなんのゆきしたにんじん) / 妻有舞にんじん (つまりまいにんじん) | 津南町、十日町市 | 秋に収穫せず、雪の下で越冬させた人参。糖度が高まり、甘みが非常に強い。フルーツのような甘さとも評される。生食やジュースにも向く。(※伝統野菜というよりは栽培方法によるブランド) | |
しょうが類 | 仁野分しょうが (にのわけしょうが) | 上越市(板倉区) | 葉生姜。茎が赤く、辛味が穏やかで香りが良い。味噌をつけて生食するほか、甘酢漬けなどにされる。 |
みょうが類 | みょうが (正善寺みょうが, 棚畑みょうが) | 上越市 | 夏から秋にかけて収穫される。独特の香りと辛味がある。薬味、天ぷら、酢の物、味噌汁の実などに利用される。正善寺、棚畑は特に産地として知られる。 |
オクラ類 | 頸城オクラ (くびきオクラ) / ヨシダオクラ (ヨシダオクラ) | 上越市 | 丸さやで一般的な角オクラより大きい。肉厚で柔らかく、粘りが強い。 |
とうがらし類 | オニゴショウ (オニゴショウ) / シシゴショウ (シシゴショウ) | 妙高市 | 大型で肉厚のとうがらし。辛味は比較的マイルド。味噌漬けや煮物などに利用される。 |
神楽南蛮 (かぐらなんばん) | 長岡市(山古志、太田)、三条市など | ゴツゴツとした獅子頭(神楽面)のような形が特徴。肉厚で、ピーマンのような風味と爽やかな辛味がある。辛味の強さには個体差がある。味噌炒め(かぐら南蛮味噌)、天ぷら、煮物など。 | |
ねぎ類 | 曲がりねぎ (まがりねぎ) | 新潟市北区、阿賀野市など | 生育途中で一度抜き取り、斜めに植え直すことで、白い部分が曲がって育つ。柔らかく、甘みが強いのが特徴。鍋物、焼きねぎ、薬味など。 |
やわ肌ねぎ (やわはだねぎ) | 新潟市(主に西区、北区) | 砂丘地で栽培される。白根が長く、名の通り柔らかく、甘みが強い。加熱するとさらに甘みが増す。鍋物、焼きねぎ、炒め物など。(※ブランドねぎ) | |
その他 | かきのもと (かきのもと) | 新潟県内各地(特に中越、下越) | 食用菊(延命楽)。鮮やかな赤紫色。花弁を茹でておひたしや酢の物、和え物にする。シャキシャキとした食感とほのかな香り、甘みがある。新潟の秋を彩る味覚。 |
仙人菊 (せんにんぎく) | 佐渡市 | 食用菊。「かきのもと」よりも花が大きく、黄色い品種もある。食べ方は「かきのもと」と同様。 | |
赤かぶ (あかかぶ) | 魚沼市、村上市など | 皮が赤いかぶ。地域によって様々な品種がある。主に漬物(甘酢漬け、塩漬けなど)に利用される。 | |
果樹 | 藤五郎梅 (とうごろううめ) | 新潟市江南区(亀田地区) | 大粒で肉厚な梅。主に梅干しや梅酒、梅漬けなどに加工される。 |
多くの野菜が地域名と結びついていることは、それぞれの野菜が特定の土地で長年にわたり栽培され、その土地の風土に適応してきた証拠と言えます。
※文献によっては異なる名前で呼ばれている可能性や、地域によって同じ野菜が異なる名前を持つことも考えられます。
おすすめの伝統野菜「かぐらなんばん」

かぐらなんばんの名称は、その形状が伝統芸能である神楽の面影に似ていることに由来し、地域の文化と深く結びついています。また、種とワタの部分に辛味が凝縮しているため、調理の際にこれらを取り除くことで辛さを調整できるのは、料理人にとっても家庭の食卓にとっても嬉しい特徴です。かぐらなんばん味噌のように加工品として広く流通していることは、この伝統野菜が地域を超えて多くの人に愛されている証と言えるでしょう。
特徴
かぐらなんばん(神楽南蛮)は、表面のしわと凹凸が特徴的な唐辛子で、その形状が神楽面を連想させることから名付けられました 43。ピーマンより一回り小さく、肉厚でずんぐりとした形をしています。その風味は、爽やかで強い辛味が特徴で、特に種とその周辺の白いワタの部分に辛味が集中しています。未熟な緑色のものから、熟すと赤色に変化し、赤くなったものは辛味がやや和らぎ、まろやかさが増します。また、抗酸化成分が豊富に含まれており、トマトと比較して約10倍もの量が含まれているという報告もあります。
旬な時期
旬は7月中旬から9月下旬です。霜が降りる10月下旬頃まで収穫できる場合もあります 55。ハウス栽培は一般的ではないため、旬の時期以外に入手するのは難しいとされています。
新潟県内の主な産地:
小千谷市東山地域や長岡市の山古志地域が主な産地です。その他、魚沼地域や上越地域でも栽培されています 。
代表的な料理・レシピ
- かぐら南蛮味噌(かぐらなんばんみそ): 刻んだかぐらなんばんを味噌と混ぜ合わせたもので、ご飯のお供や薬味として広く利用されます。炒めてから味噌などを加えるレシピが一般的です。
- 焼きかぐら南蛮(やきかぐらなんばん): シンプルに焼いて醤油をかけるだけでも美味しくいただけます。
- かぐら南蛮漬け(かぐらなんばんづけ): 醤油や味噌ベースの漬け汁に漬け込んだ保存食としても親しまれています。
- かぐら南蛮炒め(かぐらなんばんいため): 他の野菜や肉と一緒に炒めることで、料理に辛味を加えることができます
- かぐら南蛮の佃煮(かぐらなんばんのつくだに): 醤油と砂糖でじっくり煮込んだ、ご飯が進む一品です
かぐらなんばんについては、関連記事の「新潟伝統野菜の「神楽南蛮(かぐらなんばん)」ってどんな野菜?購入できる場所やレシピ、加工品まで紹介」でも詳しく解説しています。ぜひチェックしてみてください。
