2014年に神奈川県から小千谷市の岩沢集落に移住して早10年が経ち、11年目に突入しました、せいのうれいと申します。
栄養学を学び、食品メーカーで微生物の培養をし、はたまたNGOのボランティアとしてケニアで子供の支援に関わったり、そのほかにも介護職や事務職や飲食業や、あれやこれやと職を転々としてここにたどり着きました。
現在の本業は(何が本業か分からないのですが、中でも自分が事業主として行っているものは)【ポレポレ工房】という菓子製造業ということになりますでしょうか。お米や地元の素材を生かしたお菓子、オーダーケーキ、時にお弁当やお惣菜なども作っています。
たまに料理教室とか。
そのほかにも、農業法人での事務のアルバイト、受託の事務仕事などもしており、いわゆるフリーランス的な働き方です。少し前にこれを、【イナカフリーランス】と名付けてくれた人がありましたが、いい肩書で気に入っています。
その傍ら、なりゆきで畑と田んぼをあてがわれたらすっかりその魅力に取りつかれ、【ポレポレ農園】という楽園を手に入れた次第です。
思い付きで始めたインディカ米の耕作も4年目となりました。そんな今年は、米作りの原価をきちんと計算してみようということで、あらためて考えてみました。
田んぼ4年生、3年目の振り返り。
お米作りについて、詳しくは以前も記事にさせてもらっていますのでよかったら読んでみてください。
ちなみにこの記事は2年前のものです。
3年目の昨年は育苗で失敗し、苗が足りなくなるという事態に…。
しかし心優しい隣の田んぼの主がコシヒカリの苗を分けてくださり、無事に田植えはできました。つまり2種類のお米を作るという経験が出来ました。
お陰さまで新たな発見がありました。それは、
●プリンセスサリーはコシヒカリよりも収量が少ない。
だいたい同じくらいの面積で、同じように栽培したのですが、プリンセスサリーはコシヒカリの2/3ほどの量でした。
●プリンセスサリーは虫食いが少ない。
プリンセスサリーだけ栽培していた時はさほど気にならなかったのですが、コシヒカリを作ってみたら虫食い(ほぼカメムシの仕業だと思われます)がけっこう多くて気になりました。
プリンセスサリーの一番の特徴はその香りです。虫たちはバスマティの香りが好きではないのか…?
また粘りが少なめ=アミロース多めです。虫もアミロペクチンが多い甘みがある方が好みなのでしょうか…?
お米の原価とは
ここ最近はインフレとなり、食品の値上げなどがあちこちで取り沙汰されています。お米も上がってきてるようですね。
もっとも現在の農業ではたくさんの燃料を使いますし、肥料や農薬の原料も多くは石油。
その石油がこれだけ高くなっていては農家さんの負担もかなりのものになっているはず。生産者の立場を考えると、農家さんが正当な利益を得られるだけの価格設定になってほしいなと思いますが、なかなかそうもいかないのが現実です。
ちなみに、県内のある中山間地で米作りを行っている知り合いの農家さんが昨年(令和5年産コシヒカリ)の原価を計算していました。
結果、半俵(30kg)で9,500円。全国平均が7,500円だそうで、それより2,000円も高くなっています。
どうしてでしょうか?
形が整っていて大きくて作業効率の良い平場の田んぼに比べ、山地の田んぼは形が不規則だったり、点在していたり、水路の条件が悪かったり、手間も時間も余分にかかり、効率が悪いのです。
しかもこの原価、自身の人件費を含めない額だというから驚きです。
そして、昨年(令和5年産)の新潟県産一般コシヒカリの相対取引価格が1俵(60kg)で16,949円とのことです。
農林水産省 相対取引価格・数量
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/attach/pdf/aitaikakaku-173.pdf
つまり30kgだと8,475円。
原価が9,500円で販売価格が8,475円。。。
これはあくまでも平均値ですので、どこに売るかによってもちろん違いますが、なかなか厳しい現実です。
ではミニマムの栽培量でほぼ手作業で一連の栽培を行っている私の場合、どのくらいの費用がかかっているのか、ひとつずつ見て行ってみます。
原価計算①育苗
基本的には機械を使わないので、一番コストとなるのは自分の労力ということになります。
新潟県の現在の最低賃金は931円、ちょっと色を付けてここでは自給1,000円として換算することにします。
それでは順番に考えてみましょう。
①まず選別します。お米の種はお米。ということで昨年収穫した籾を種として使います。塩水に浸ける→浮いたものを取り除く→残ったものを再度水洗いして陰干し。という手順です。
量も少ないのでこの工程が0.5hとします。
②浸水させます。種まきの時期が近付いたら水を取り替えながら約1週間。日々の作業は籾の状態を見ることと水を変えることだけなのでこれも期間中通して0.5h位でしょうか。
③種をまきます。育苗用土は市販のもの(有機JAS認証)を使いました。
使ったのは1袋ですが、これ送料が結構かかりまして、品物と送料で確か2,700円程でした。
さて、種まきです。これが一番大変だったかもしれません。セルトレーにちまちまと土を入れて種もみを指で入れていきます。1か所に2粒ずつ。時々3粒入ったりしますがまあいいでしょう。
セルトレーは市販されているもので一番小さな穴のもの、1枚が228穴のものを9枚使いました。
セルトレーは一昨年に購入したものを繰り返し使って3回目、となるので今回は価格の1/3を費用に入れます。
1枚200円×9枚×1/3=600円
種をまく作業が、約6hでした。
種をまいたら、水に浸けておくのですが、板とビニールシートを使ったプールに入れますが、この材料は確か家にあったものや貰い物を再利用しているのでお金はかかっていません。
④育苗中の管理
毎日、生育の状態を見たり、水を足したりしますがさほど時間はかからないです。数分程度でしょうか。30日として
1日5分×30日=150分=2.5h
ちゃんと計算すると、けっこう時間数稼いでますね。
そして約1か月後、苗ができあがりました。まずまず良い出来です。
ここまでの結果を計算してみます。
消耗品 2,700円+600円=3,300円
労働 1,000円×9.5h=9,500円
合計が12,800円です。
原価計算②田植え、除草
いよいよ田植えです。もちろん手で植えます。
まず植える場所にしるしを付けるための枠付けをします。そして1本植え。
この枠は頂き物なので、原価ゼロ円。大き目の物をもらえたので作業効率は以前より良いですね。
このちっちゃな苗がどのくらいに育つのか、ドキドキワクワクです。
今回は田植えは一人で行いました。思ったより時間がかかって約5hです。
あとは水見と除草です。
水管理をしながら、頃合いを見て除草作業をしていきます。田植え直後は、ほぼ毎日水の量を見に行っていていました。田んぼまで片道5㎞、往復でかかる時間が10分で、あとは水路からの流入や田んぼからの排出量を調整するのに、土嚢袋とか石を動かしたり、水の出口の泥を盛ったり削ったりして、1回にかかる時間は平均30分くらいでしょうか。今年はだいぶ手抜きをして、田植え後一週間は毎日行ってましたが、その後は2日か3日に1回くらいだったと思います。なので2か月で20回として、30分×20回で600分=10h。これまた塵も積もれば、ですね。
初期除草に使ったのは、チェーン除草機。
こちらは、一昨年17,000円で購入しました(送料込み)。10年は持つと思うので費用計上は1/10にします。ただし私が10年も続けられるかは問題ですが。
17,000×1/10=1,700円
今年は、このチェーン除草は結局1回のみで、だいたい1hでした。
その後は、これまた頂き物の昔ながらの除草機。
最近はなかなか見ないかもしれないこの代物。調べてみたのですが、【はったんどり】という名前があるらしいです。
まわりの人たちに聞いてみたところ、80代以上位の方々は昔使った記憶があるとのことでした。
これがなかなか軽くて小回りが利いて便利なので、今回はよく使いました。日々ちょっと気になるところをごしごしとしていましたが、全体をまとめて行ったのが3回?だったかと思います。ざっと見積もって3hとしておきます。
あとは畔の草刈り。田んぼの周りの草刈は、刈払機でガーっと刈ります。シーズン中何度かしますが、現在までで2回、稲刈りまで、あと2回かなあ~ということで、
1回30分×4回=120分=2h
ちなみに現在、7月末時点での田んぼはこんな感じです。
あとは、極端に水が増えすぎたり乾きすぎたりするときは調節するくらいで、することは見守り中心です。
というわけで、田植えと除草にかかった費用
消耗品 1,700円
労働 1,000円×21h=21,000円
合計で22,700円です。
原価計算③稲刈りから玄米になるまで
待ちに待った稲刈りです。いうまでもなく手刈りです。
ありがたいことに毎年この作業には手伝ってくれる人が現れるので数人で行っています。
昨年は確か2人、来てくれました。手で刈ってその場でコンバインで脱穀します。これにかかった時間が2時間なので、
3人×2時間=6h
コンバインはこの田んぼの主からのご好意で、タダで借りているので原価には入れませんが、実際お金払って借りたら相場ってどうなんですかね?
実際、農家にとってこの農業用機械にかかる費用が一番のネックなのですよね。如何に効率よく機会を回すかで利益率が大きく違ってきます。
次に脱穀した籾は天日干しにします。
私は自宅の前にスペースがあるので、天気の良い日にシートの上に籾を広げて、日当たりが均一になるように時々かき混ぜて、3日間くらい干します。夜露の降りる夜間は車庫の中に入れるので、この、出したり入れたりかき混ぜたり、という手間ですね、これが、1日30分として3日で90分=1.5h。
めでたく適度に乾燥されたら、籾摺り(もみすり)をして玄米の状態にします。さすがにこれも手作業ではやっておられず、また機械を使ってタダでやってもらっています。量が少ないので30分もあれば終わってしまいます。機械の力は偉大です。時間のみ0.5h計上します。
稲刈りから籾摺りまで、労働力のみの計算で
1,000円×8h=8,000円
となります。
結果と考察
ここまでを合計します。
①12,800円+②22,700円+③8,000円
ということで、43,500円となります。
だいぶ大雑把に計算してこの数字です。
そして肝心お米の収量ですが、昨年の実績から今年も同程度とするとおよそ40kgと予想します。
1kgあたり1,087円。
なんというか、想像はしていましたが、市場の価格から考えるとだいぶ高いです。
厳密に出そうとすると、さらに日々の田んぼまでの往復に係る時間とガソリン代、前述のとおり機械などの賃借料、書き切れていない細々した作業も加える必要がありますが、今回は概算ということで出してみました。
さらに販売することを考えると、精米して袋に詰めて、シール貼ったりとなるわけで、さらなる手間や資材などの費用が必要になってきます。
先日スーパーでお米の小売価格を見てみましたが、安いものでだいたい1kg400円でした。魚沼産コシヒカリなどのブランド米でも、1kgで1,000円超えるものはそうそう見られませんでした。
金額のことだけ考えると、『買った方がよっぽど安い』ということが分かりました。しかしながら、趣味と考えると年間でこのくらいの出費ならそう高くもないか、と考えられます(笑)
ECサイトなどの、自然栽培等のこだわり米だと1,500円くらいが多い印象ですが、このあたりは消費者それぞれの価値観ですよね。
農産物に限らず何でもそうですが、『自分で作る』ということには様々な発見や学び、喜びがあり、お金で買えない価値を感じているので、私個人においてはとても【贅沢】な食生活と経験を得ることが出来ています。
ちなみにこのプリンセスサリー、細々と販売もしています(価格はもちろんこの原価よりは高いです)。
今年のお米の出来具合も楽しみですが、来年あたりまた違う品種のお米も作ってみたいなあ、などと考えてみたりもしています。