以前は、農産物表示やインターネット通販などで、「無農薬」と表示された農産物が販売されているのをよく見かけました。
しかし、 現在は農産物の表示に関するルールが改正されて無農薬と表示することが禁止されているのをご存知でしょうか。
今回は、このルールを定めた「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」について解説します。
「無農薬」の表示はできない
平成19年に改正された「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」では、農産物に無農薬や減農薬と表示することが禁止されています。
なぜ、農薬を使用していない農産物でも無農薬と表示できないのでしょうか。
農薬不使用なら「無農薬」といえる?
今でも時々、農産物直売所やマルシェなどで、無農薬と書かれた野菜やお米などの農作物が販売されているのを見かけることがあります。
しかし、無農薬の表示は、農林水産省が定めた「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」で禁止されているため、たとえ一切農薬を使用せずに農産物を栽培していても「無農薬」と表示することはできません。
また、減農薬の表示についても禁止されています。
残留農薬が検出されることも
無農薬の表示が禁止されている理由は次の通りです。
- たとえ本人が農薬を一切使用せずに農産物を栽培したとしても、隣の畑や田んぼで使用した農薬が風で飛んできて、土壌や農産物に付着する可能性がある
- その畑で以前使用していた農薬が、無農薬で栽培した農産物に残留する可能性がある
このように栽培時に農薬を使用していなくても、収穫した農産物から残留農薬が検出されることがあります。
農産物の表示は3種類ある
日本の農産物は、法律やガイドラインによって、慣行栽培農産物(農薬や化学肥料を使用した農産物)、有機栽培農産物(農薬や化学肥料を使用していない農産物)、特別栽培農産物(そのどちらにも属さない農産物)の3つに分けられています。
慣行栽培農産物
慣行栽培という言葉に明確な定義はありません。慣行とは「普段から行うこと」「習慣として行うこと」を意味していて、慣行栽培とは一般的に行われている栽培方法を指します。
農薬は、残留農薬が食品基準法に定められた基準を超えないように、作物ごとに使用する量と使用方法を決めて登録する仕組みになっています。
この量や使用方法を守っている多くの農家が、普段通りに行ってる農業で生産された農産物が慣行栽培農産物です。
「慣行栽培農産物」と敢えて表記されることはないので、「有機栽培」や「特別栽培」の表示がない場合には、慣行栽培農産物に該当します。
有機栽培農産物
「有機農業の推進に関する法律」では、有機農業を次のように定義しています。
- 化学合成された肥料や農薬を使用していない
- 遺伝子組換えの技術を利用していない
- 環境への負荷をできるだけ低減する
このような生産方法で収穫された農産物が、有機栽培農産物です。
「有機農産物」など「有機〇〇」と表示して出荷や販売をするには、JAS法に基づいて有機JAS規格に適合している農業が行われているか、登録認証する第三者機関の検査を受けて、「有機JAS認証」を取得しなければなりません。
特別栽培農産物
特別栽培農産物とは、農薬や化学肥料の使用する量や回数を、地域慣行栽培基準より削減して栽培した農産物のことです。
農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」には次のように書かれています。
- その農産物の生産過程で使用する節減対象農薬の使用回数が慣行レベルの5割以下
- その農産物の生産過程で使用する化学肥料の窒素成分量が慣行レベルの5割以下
慣行的に使用されている農薬の使用時期や使用回数、化学肥料の窒素成分量は栽培が行われる地域で決められていて、これを地域慣行栽培基準と言って、それぞれ当地で提示されているのが特徴です。
「無農薬」表示から「特別栽培農産物」へ
先ほど書いた通り、農水省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」によって「無農薬」という表示は禁止され、「特別栽培農産物」と表示しなければならなくなりました。
この章では、特別栽培農産物の基準や表示する時のルールについて解説します。
ガイドラインの改正の経緯
以前、農林水産省が示していた「有機農産物及び特別栽培農産物に係るガイドライン」では、減農薬栽培農産物、減化学肥料栽培農産物、無農薬栽培農産物、無化学肥料栽培農産物という4つの表示が認められていました。
しかし、消費者から無農薬栽培農産物と有機栽培農産物を誤解しやすいなどの理由で批判があったことから、2003年に改正され「特別栽培農産物」と、ひとつの名称を使うことになっています。
特別栽培の生産の原則
「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」の適用対象になっているのは、不特定多数の消費者に販売される「加工していない野菜や果物」「乾燥調理した穀類や豆類、お茶など」です。
ガイドラインには、特別栽培の「生産の原則」が次のように定められています。
- 農業分野における自然循環機能を維持増進するために、化学合成された農薬や肥料の使用を減らすことを基本として、「土壌本体の性質に由来して農地の生産力を発揮させる」「 農業による環境負荷をできる限り減らした栽培方法で生産する」
節減対象農薬とは
特別栽培農産物とは、次の基準で栽培された農産物です。
- その農産物の生産過程で使用する節減対象農薬の使用回数が慣行レベルの5割以下
- その農産物の生産過程で使用する化学肥料の窒素成分量が慣行レベルの5割以下
節減対象農薬とは、化学合成された農薬のうち、農林水産大臣が定める化学的に合成された農薬や肥料、土壌改良資材を除くものを指しています。
具体的には、硫黄くん煙剤や硫黄粉剤、食酢、水和硫黄剤、生石灰、銅水和剤、銅粉剤、二酸化炭素くん蒸剤、ワックス水和剤などを除いた化学合成農薬です。
表示するときのルール
特別栽培農産物を販売する際には、法的な強制力はありませんがガイドラインに沿って節減対象農薬の使用状況の表示が必要です。
表示は、容器や包装、票片に表示ができない場合には、インターネットでの情報提供も認められています。
<表示例>
農林水産省新ガイドラインによる表示 |
特別栽培農産物 農 薬:栽培期間中不使用 化学肥料(窒素成分):栽培期間中不使用 栽培責任者 **** 住所 **県**町***** 連絡先 TEL***-***-**** 確認責任者 **** 住所 **県**町***** 連絡先 TEL***-***-**** |
宣伝や広告では「無農薬」表示されていることも
「特別栽培農産物表示ガイドライン」で、禁止とされている「無農薬」や「減農薬」の表示ですが、農産物販売の宣伝や広告では、今も見かけることがあります。
直売所やネット広告で「無農薬」表示を見かけるのはなぜ?
「特別栽培農産物表示ガイドライン」が改正されたのは平成19年ですが、周知が十分に行われなかったこともあり、「無農薬」や「減農薬」の表示が禁止されていることを知らない生産者や販売者の方もいます。
一方で、「無農薬」や「減農薬」と表示した方が、消費者は安全なイメージを持って売れると、禁止されているのを知りながら表示している人がいる可能性もあるでしょう。
「無農薬」表示は消費者庁の管轄じゃない
一般的な食品表示を管轄しているのは「消費者庁」です。一方で、農産物への「無農薬」や「減農薬」の表示禁止をガイドラインで定めているのは農林水産省です。
このような縦割り行政の弊害が理由で、「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」の改正についての周知が十分に行き渡らず、未だに「無農薬」や「減農薬」の表示を目にすることがあると言えるでしょう。
まとめ
今回は、農産物の表示方法を定めている「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」について解説しました。
ガイドラインの対象となるのは不特定多数の消費者に販売される農産物全てです。
農産物を販売する人には、特別栽培農産物と有機栽培農産物の違いや、正しい表示の仕方などについての理解が必要とされるでしょう。